かは》の水《みづ》を飲《の》むのさへ気《き》が怯《ひ》けたほど生命《いのち》が大事《だいじ》で、何故《なぜ》又《また》と謂《い》はつしやるか。
唯《たゞ》挨拶《あいさつ》をしたばかりの男《をとこ》なら、私《わし》は実《じつ》の処《ところ》、打棄《うつちや》つて置《お》いたに違《ちが》ひはないが、快《こゝろよ》からぬ人《ひと》と思《おも》つたから、其《その》まゝに見棄《みす》てるのが、故《わざ》とするやうで、気《き》が責《せ》めてならなんだから、」
と宗朝《しうてう》は矢張《やツぱり》俯向《うつむ》けに床《とこ》に入《はい》つたまゝ合掌《がツしやう》していつた。
「其《それ》では口《くち》でいふ念仏《ねんぶつ》にも済《す》まぬと思《おも》ふてさ。」
第六
「さて、聞《き》かつしやい、私《わし》はそれから檜《ひのき》の裏《うら》を抜《ぬ》けた、岩《いは》の下《した》から岩《いは》の上《うへ》へ出《で》た、樹《き》の中《なか》を潜《くゞ》つて草深《くさふか》い径《こみち》を何処《どこ》までも、何処《どこ》までも。
すると何時《いつ》の間《ま》にか今《いま》上《あが》
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