にぐるま》が並《なら》んで通《とほ》るでがす。藪《やぶ》のあるのは旧《もと》大《おほき》いお邸《やしき》の医者様《いしやさま》の跡《あと》でな、此処等《こゝいら》はこれでも一ツの村《むら》でがした、十三|年《ねん》前《ぜん》の大水《おほみづ》の時《とき》、から一|面《めん》に野良《のら》になりましたよ、人死《ひとじに》もいけえこと。御坊様《ごばうさま》歩行《ある》きながらお念仏《ねんぶつ》でも唱《とな》へて遣《や》つてくれさつしやい)と問《と》はぬことまで親切《しんせつ》に話《はな》します。其《それ》で能《よ》く仔細《しさい》が解《わか》つて確《たしか》になりはなつたけれども、現《げん》に一人《ひとり》蹈迷《ふみまよ》つた者《もの》がある。
(此方《こつち》の道《みち》はこりや何処《どこ》へ行《ゆ》くので、)といつて売薬《ばいやく》の入《はい》つた左手《ゆんで》の坂《さか》を尋《たづ》ねて見《み》た。
(はい、これは五十|年《ねん》ばかり前《まへ》までは人《ひと》が歩行《ある》いた旧道《きうだう》でがす。矢張《やツぱり》信州《しんしう》へ出《で》まする、前《さき》は一つで七|里《り》ば
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