ごや》に来《き》て、今《いま》しがた枕《まくら》に就《つ》いた時《とき》まで、私《わたし》が知《し》つてる限《かぎ》り余《あま》り仰向《あふむ》けになつたことのない、詰《つま》り傲然《がうぜん》として物《もの》を見《み》ない質《たち》の人物《じんぶつ》である。
一体《いつたい》東海道《とうかいだう》掛川《かけがは》の宿《しゆく》から同《おなじ》汽車《きしや》に乗《の》り組《く》んだと覚《おぼ》えて居《ゐ》る、腰掛《こしかけ》の隅《すみ》に頭《かうべ》を垂《た》れて、死灰《しくわい》の如《ごと》く控《ひか》へたから別段《べつだん》目《め》にも留《と》まらなかつた。
尾張《をはり》の停車場《ステーシヨン》で他《た》の乗組員《のりくみゐん》は言合《いひあ》はせたやうに、不残《のこらず》下《お》りたので、函《はこ》の中《なか》には唯《たゞ》上人《しやうにん》と私《わたし》と二人《ふたり》になつた。
此《こ》の汽車《きしや》は新橋《しんばし》を昨夜《さくや》九時半《くじはん》に発《た》つて、今夕《こんせき》敦賀《つるが》に入《はい》らうといふ、名古屋《なごや》では正午《ひる》だつたから、飯
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