休《たちやす》らはうといふ一本《いつぽん》の樹立《こだち》も無《な》い、右《みぎ》も左《ひだり》も山《やま》ばかりぢや、手《て》を伸《の》ばすと達《とゞ》きさうな峯《みね》があると、其《そ》の峯《みね》へ峯《みね》が乗《の》り巓《いたゞき》が被《かぶ》さつて、飛《と》ぶ鳥《とり》も見《み》えず、雲《くも》の形《かたち》も見《み》えぬ。
 道《みち》と空《そら》との間《あひだ》に唯《たゞ》一人《ひとり》我《わし》ばかり、凡《およ》そ正午《しやうご》と覚《おぼ》しい極熱《ごくねつ》の太陽《たいやう》の色《いろ》も白《しろ》いほどに冴《さ》え返《かへ》つた光線《くわうせん》を、深々《ふか/″\》と頂《いたゞ》いた一重《ひとへ》の檜笠《ひのきがさ》に凌《しの》いで、恁《か》う図面《づめん》を見《み》た。」
 旅僧《たびそう》は然《さ》ういつて、握拳《にぎりこぶし》を両方《りやうはう》枕《まくら》に乗《の》せ、其《それ》で額《ひたひ》を支《さゝ》へながら俯向《うつむ》いた。
 道連《みちづれ》になつた上人《しやうにん》は、名古屋《なごや》から此《こ》の越前《えちぜん》敦賀《つるが》の旅籠屋《はた
前へ 次へ
全147ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング