《えだ》を伝《つた》ふと見《み》えて、見上《みあ》げるやうに高《たか》い木《き》の、軈《やが》て梢《こずえ》まで、かさ/\がさり。
まばらに葉《は》の中《なか》を透《す》かして月《つき》は山《やま》の端《は》を放《はな》れた、其《そ》の梢《こずえ》のあたり。
婦人《をんな》はものに拗《す》ねたやう、今《いま》の悪戯《いたづら》、いや、毎々《まい/\》、蟇《ひき》と蝙蝠《かはほり》とお猿《さる》で三|度《ど》ぢや。
其《そ》の悪戯《いたづら》に多《いた》く機嫌《きげん》を損《そこ》ねた形《かたち》、あまり子供《こども》がはしやぎ過《す》ぎると、若《わか》い母様《おふくろ》には得《え》てある図《づ》ぢや、
本当《ほんたう》に怒《おこ》り出《だ》す。
といつた風情《ふぜい》で面倒臭《めんだうくさ》さうに衣服《きもの》を着《き》て居《ゐ》たから、私《わし》は何《なんに》も問《と》はずに少《ちい》さくなつて黙《だま》つて控《ひか》へた。」
第十七
「優《やさ》しいなかに強《つよ》みのある、気軽《きがる》に見《み》えても何処《どこ》にか落着《おちつき》のある、馴々《なれ/\》しくて犯《をか》し易《やす》からぬ品《ひん》の可《い》い、如何《いか》なることにもいざとなれば驚《おどろ》くに足《た》らぬといふ身《み》に応《こたへ》のあるといつたやうな風《ふう》の婦人《をんな》、恁《か》く嬌瞋《きやうしん》を発《はつ》しては屹度《きつと》可《い》いことはあるまい、今《いま》此《こ》の婦人《をんな》に邪慳《じやけん》にされては木《き》から落《お》ちた猿《さる》同然《どうぜん》ぢやと、おつかなびつくりで、おづ/\控《ひか》へて居《ゐ》たが、いや案《あん》ずるより産《うむ》が安《やす》い。
(貴僧《あなた》、嘸《さぞ》をかしかつたでござんせうね、)と自分《じぶん》でも思《おも》ひ出《だ》したやうに快《こゝろよ》く微笑《ほゝゑ》みながら、
(為《し》やうがないのでございますよ。)
以前《いぜん》と変《かは》らず心安《こゝろやす》くなつた、帯《おび》も早《は》や締《し》めたので、
(其《それ》では家《うち》へ帰《かへ》りませう。)と米磨桶《こめとぎをけ》を小脇《こわき》にして、草履《ざうり》を引《ひつ》かけて衝《つ》と崖《がけ》へ上《のぼ》つた。
(お危《あぶの》う
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