》に濡《ぬ》れて黒《くろ》い、滑《なめら》かな、大《おほき》な石《いし》へ蒼味《あをみ》を帯《お》びて透通《すきとほ》つて映《うつ》るやうに見《み》えた。
するとね、夜目《よめ》で判然《はつきり》とは目《め》に入《い》らなんだが地体《ぢたい》何《なん》でも洞穴《ほらあな》があると見《み》える。ひら/\と、此方《こちら》からもひら/\と、ものゝ鳥《とり》ほどはあらうといふ大蝙蝠《おほかはほり》が目《め》を遮《さへぎ》つた。
(あれ、不可《いけな》いよ、お客様《きやくさま》があるぢやないかね。)
不意《ふい》を打《う》たれたやうに叫《さけ》んで身悶《みもだえ》をしたのは婦人《をんな》。
(何《ど》うかなさいましたか、)最《も》うちやんと法衣《ころも》を着《き》たから気丈夫《きぢやうぶ》に尋《たづ》ねる。
(否《いゝえ》、)
といつたばかりで極《きまり》が悪《わる》さうに、くるりと後向《うしろむき》になつた。
其時《そのとき》小犬《こいぬ》ほどな鼠色《ねづみいろ》の小坊主《こばうず》が、ちよこ/\とやつて来《き》て、※[#「口+阿」、第4水準2−4−5]呀《あなや》と思《おも》ふと、崖《がけ》から横《よこ》に宙《ちゆう》をひよいと、背後《うしろ》から婦人《をんな》の背中《せなか》へぴつたり。
裸体《はだか》の立姿《たちすがた》は腰《こし》から消《き》えたやうになつて、抱《だき》ついたものがある。
(畜生《ちくしやう》お客様《きやくさま》が見《み》えないかい。)
と声《こゑ》に怒《いかり》を帯《お》びたが、
(お前達《まへだち》は生意気《なまいき》だよ、)と激《はげ》しくいひさま、腋《わき》の下《した》から覗《のぞ》かうとした件《くだん》の動物《どうぶつ》の天窓《あたま》を振返《ふりかへ》りさまにくらはしたで。
キツヽヽといふて奇声《きせい》を放《はな》つた、件《くだん》の小坊主《こばうず》は其《その》まゝ後飛《うしろと》びに又《また》宙《ちゆう》を飛《と》んで、今《いま》まで法衣《ころも》をかけて置《お》いた枝《えだ》の尖《さき》へ長《なが》い手《て》で釣《つる》し下《さが》つたと思《おも》ふと、くるりと釣瓶覆《つるべがへし》に上《うへ》へ乗《の》つて、其《それ》なりさら/\と木登《きのぼり》をしたのは、何《なん》と猿《さる》ぢやあるまいか。
枝《えだ》から枝
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