高野聖
泉鏡太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)参謀本部《さんぼうほんぶ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳《やな》ヶ|瀬《せ》では
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、36−13]《しぶき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばら/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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第一
「参謀本部《さんぼうほんぶ》編纂《へんさん》の地図《ちづ》を又《また》繰開《くりひら》いて見《み》るでもなからう、と思《おも》つたけれども、余《あま》りの道《みち》ぢやから、手《て》を触《さは》るさへ暑《あつ》くるしい、旅《たび》の法衣《ころも》の袖《そで》をかゝげて、表紙《へうし》を附《つ》けた折本《をりほん》になつてるのを引張《ひつぱ》り出《だ》した。
飛騨《ひだ》から信州《しんしう》へ越《こ》える深山《しんざん》の間道《かんだう》で、丁度《ちやうど》立休《たちやす》らはうといふ一本《いつぽん》の樹立《こだち》も無《な》い、右《みぎ》も左《ひだり》も山《やま》ばかりぢや、手《て》を伸《の》ばすと達《とゞ》きさうな峯《みね》があると、其《そ》の峯《みね》へ峯《みね》が乗《の》り巓《いたゞき》が被《かぶ》さつて、飛《と》ぶ鳥《とり》も見《み》えず、雲《くも》の形《かたち》も見《み》えぬ。
道《みち》と空《そら》との間《あひだ》に唯《たゞ》一人《ひとり》我《わし》ばかり、凡《およ》そ正午《しやうご》と覚《おぼ》しい極熱《ごくねつ》の太陽《たいやう》の色《いろ》も白《しろ》いほどに冴《さ》え返《かへ》つた光線《くわうせん》を、深々《ふか/″\》と頂《いたゞ》いた一重《ひとへ》の檜笠《ひのきがさ》に凌《しの》いで、恁《か》う図面《づめん》を見《み》た。」
旅僧《たびそう》は然《さ》ういつて、握拳《にぎりこぶし》を両方《りやうはう》枕《まくら》に乗《の》せ、其《それ》で額《ひたひ》を支《さゝ》へながら俯向《うつむ》いた。
道連《みちづれ》になつた上人《しやうにん》は、名古屋《なごや》から此《こ》の越前《えちぜん》敦賀《つるが》の旅籠屋《はた
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