、こえ、こえ。)といひながら、気《き》だるさうに手《て》を持上《もちあ》げて其《そ》の蓬々《ばう/\》と生《は》へた天窓《あたま》を撫《な》でた。
(坊《ばう》さま、坊《ばう》さま?)
すると婦人《をんな》が、下《しも》ぶくれな顔《かほ》にえくぼを刻《きざ》んで、三ツばかりはき/\と続《つゞ》けて頷《うなづ》いた。
少年《せうねん》はうむといつたが、ぐたりとして又《また》臍《へそ》をくり/\/\。
私《わし》は余《あま》り気《き》の毒《どく》さに顔《かほ》も上《あ》げられないで密《そ》つと盗《ぬす》むやうにして見《み》ると、婦人《をんな》は何事《なにごと》も別《べつ》に気《き》に懸《か》けては居《を》らぬ様子《やうす》、其《その》まゝ後《あと》へ跟《つ》いて出《で》やうとする時《とき》、紫陽花《あぢさい》の花《はな》の蔭《かげ》からぬいと出《で》た一|名《めい》の親仁《おやぢ》がある。
背戸《せど》から廻《まは》つて来《き》たらしい、草鞋《わらじ》を穿《は》いたなりで、胴乱《どうらん》の根付《ねつけ》を紐長《ひもなが》にぶらりと提《さ》げ、啣煙管《くはへぎせる》をしながら並《なら》んで立停《たちとま》つた。
(和尚様《おしやうさま》おいでなさい。)
婦人《をんな》は其方《そなた》を振向《ふりむ》いて、
(おぢ様《さん》何《ど》うでござんした。)
(然《さ》ればさの、頓馬《とんま》で間《ま》の抜《ぬ》けたといふのは那《あ》のことかい。根《ね》ツから早《は》や狐《きつね》でなければ乗《の》せ得《え》さうにもない奴《やつ》ぢやが、其処《そこ》はおらが口《くち》ぢや、うまく仲人《なかうど》して、二|月《つき》や三|月《つき》はお嬢様《ぢやうさま》が御不自由《ごふんじよ》のねえやうに、翌日《あす》はものにして沢山《うん》と此処《こゝ》へ担《かつ》ぎ込《こ》んます。)
(お頼《たの》み申《まを》しますよ。)
(承知《しようち》、承知《しようち》、おゝ、嬢様《ぢやうさま》何処《どこ》さ行《ゆ》かつしやる。)
(崖《がけ》の水《みづ》まで一寸《ちよいと》。)
(若《わか》い坊様《ばうさま》連《つ》れて川《かは》へ落《お》つこちさつさるな。おら此処《こゝ》に眼張《がんば》つて待《ま》つ居《と》るに、)と横様《よこさま》に椽《えん》にのさり。
(貴僧《あなた》、あんなことを申
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