はない、一|生懸命《しやうけんめい》、景色《けしき》も奇跡《きせき》もあるものかい、お天気《てんき》さへ晴《は》れたか曇《くも》つたか訳《わけ》が解《わか》らず、目《ま》まじろぎもしないですた/\と捏《こ》ねて上《のぼ》る。
 とお前様《まへさま》お聞《き》かせ申《まを》す話《はなし》は、これからぢやが、最初《さいしよ》に申《まを》す通《とほ》り路《みち》がいかにも悪《わる》い、宛然《まるで》人《ひと》が通《かよ》ひさうでない上《うへ》に、恐《おそろし》いのは、蛇《へび》で。両方《りやうはう》の叢《くさむら》に尾《を》と頭《あたま》とを突込《つツこ》んで、のたりと橋《はし》を渡《わた》して居《ゐ》るではあるまいか。
 私《わし》は真先《まツさき》に出会《でツくわ》した時《とき》は笠《かさ》を被《かぶ》つて竹杖《たけづゑ》を突《つ》いたまゝはツと息《いき》を引《ひ》いて膝《ひざ》を折《を》つて坐《すわ》つたて。
 いやもう生得《しやうとく》大嫌《だいきらひ》、嫌《きらひ》といふより恐怖《こわ》いのでな。
 其時《そのとき》は先《ま》づ人助《ひとたす》けにずる/″\と尾《を》を引《ひ》いて向《むか》ふで鎌首《かまくび》を上《あ》げたと思《おも》ふと草《くさ》をさら/\と渡《わた》つた。
 漸《やうや》う起上《おきあが》つて道《みち》の五六|町《ちやう》も行《ゆ》くと又《また》同一《おなじ》やうに、胴中《どうなか》を乾《かは》かして尾《を》も首《くび》も見《み》えぬが、ぬたり!
 あツといふて飛退《とびの》いたが、其《それ》も隠《かく》れた。三|度目《どめ》に出会《であ》つたのが、いや急《きふ》には動《うご》かず、然《しか》も胴体《どうたい》の太《ふと》さ、譬《たと》ひ這出《はひだ》した処《ところ》でぬら/\と遣《や》られては凡《およ》そ五|分間《ふんかん》位《ぐらゐ》は尾《を》を出《だ》すまでに間《ま》があらうと思《おも》ふ長虫《ながむし》と見《み》えたので已《や》むことを得《え》ず私《わし》は跨《また》ぎ越《こ》した、途端《とたん》に下腹《したはら》が突張《つツぱ》つてぞツと身《み》の毛《け》、毛穴《けあな》が不残《のこらず》鱗《うろこ》に変《かは》つて、顔《かほ》の色《いろ》も其《そ》の蛇《へび》のやうになつたらうと目《め》を塞《ふさ》いだ位《くらゐ》。
 絞《しぼ
前へ 次へ
全74ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング