つぺら坊主《ばうず》になつても矢張《やツぱ》り生命《いのち》は欲《ほ》しいのかね、不思議《ふしぎ》ぢやあねえか、争《あらそ》はれねもんだ、姉《ねえ》さん見《み》ねえ、彼《あれ》で未《ま》だ未練《みれん》のある内《うち》が可《い》いぢやあねえか、)といつて顔《かほ》を見合《みあ》はせて二人《ふたり》で呵々《から/\》と笑《わら》つたい。
年紀《とし》は若《わか》し、お前様《まへさん》、私《わし》は真赤《まツか》になつた、手《て》に汲《く》んだ川《かは》の水《みづ》を飲《の》みかねて猶予《ためら》つて居《ゐ》るとね。
ポンと煙管《きせる》を払《はた》いて、
(何《なに》、遠慮《ゑんりよ》をしねえで浴《あ》びるほどやんなせえ、生命《いのち》が危《あやふ》くなりや、薬《くすり》を遣《や》らあ、其為《そのため》に私《わし》がついてるんだぜ、喃《なあ》姉《ねえ》さん。おい、其《それ》だつても無銭《たゞ》ぢやあ不可《いけね》えよ憚《はゞか》りながら神方万金丹《しんぱうまんきんたん》、一|貼《てふ》三|百《びやく》だ、欲《ほ》しくば買《か》ひな、未《ま》だ坊主《ばうず》に報捨《はうしや》をするやうな罪《つみ》は造《つく》らねえ、其《それ》とも何《ど》うだお前《まへ》いふことを肯《き》くか、)といつて茶店《ちやみせ》の女《をんな》の背中《せなか》を叩《たゝ》いた。
私《わし》は匆々《さう/\》に遁出《にげだ》した。
いや、膝《ひざ》だの、女《をんな》の背中《せなか》だのといつて、いけ年《とし》を仕《つかまつ》つた和尚《おしやう》が業体《げふてい》で恐入《おそれい》るが、話《はなし》が、話《はなし》ぢやから其処《そこ》は宜《よろ》しく。」
第四
「私《わし》も腹立紛《はらだちまぎ》れぢや、無暗《むやみ》と急《いそ》いで、それからどん/\山《やま》の裾《すそ》を田圃道《たんぼみち》へ懸《かゝ》る。
半町《はんちやう》ばかり行《ゆ》くと、路《みち》が恁《か》う急《きふ》に高《たか》くなつて、上《のぼ》りが一《いつ》ヶ|処《しよ》、横《よこ》から能《よ》く見《み》えた、弓形《ゆみなり》で宛《まる》で土《つち》で勅使橋《ちよくしばし》がかゝつてるやうな。上《うへ》を見《み》ながら、之《これ》へ足《あし》を踏懸《ふみか》けた時《とき》、以前《いぜん》の薬売《くすり
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