うり》がすた/\遣《や》つて来《き》て追着《おひつ》いたが。
別《べつ》に言葉《ことば》も交《か》はさず、又《また》ものをいつたからといふて、返事《へんじ》をする気《き》は此方《こツち》にもない。何処《どこ》までも人《ひと》を凌《しの》いだ仕打《しうち》な薬売《くすりうり》は流盻《しりめ》にかけて故《わざ》とらしう私《わし》を通越《とほりこ》して、すた/\前《まへ》へ出《で》て、ぬつと小山《こやま》のやうな路《みち》の突先《とつさき》へ蝙蝠傘《かうもりがさ》を差《さ》して立《た》つたが、其《その》まゝ向《むか》ふへ下《お》りて見《み》えなくなる。
其後《そのあと》から爪先上《つまさきあが》り、軈《やが》てまた太鼓《たいこ》の胴《どう》のやうな路《みち》の上《うへ》へ体《からだ》が乗《の》つた、其《それ》なりに又《また》下《くだ》りぢや。
売薬《ばいやく》は先《さき》へ下《お》りたが立停《たちどま》つて頻《しきり》に四辺《あたり》を瞻《みまは》して居《ゐ》る様子《やうす》、執念深《しふねんぶか》く何《なに》か巧《たく》んだか、と快《こゝろよ》からず続《つゞ》いたが、さてよく見《み》ると仔細《しさい》があるわい。
路《みち》は此処《こゝ》で二|条《すぢ》になつて、一|条《すぢ》はこれから直《す》ぐに坂《さか》になつて上《のぼ》りも急《きふ》なり、草《くさ》も両方《りやうはう》から生茂《おひしげ》つたのが、路傍《みちばた》の其《そ》の角《かど》の処《ところ》にある、其《それ》こそ四|抱《かゝへ》さうさな、五|抱《かゝへ》もあらうといふ一|本《ぽん》の檜《ひのき》の、背後《うしろ》へ畝《うね》つて切出《きりだ》したやうな大巌《おほいは》が二ツ三ツ四ツと並《なら》んで、上《うへ》の方《はう》へ層《かさ》なつて其《そ》の背後《うしろ》へ通《つう》じて居《ゐ》るが、私《わし》が見当《けんたう》をつけて、心組《こゝろぐ》んだのは此方《こツち》ではないので、矢張《やツぱり》今《いま》まで歩行《ある》いて来《き》た其《そ》の巾《はゞ》の広《ひろ》いなだらかな方《はう》が正《まさ》しく本道《ほんだう》、あと二|里《り》足《た》らず行《ゆ》けば山《やま》になつて、其《それ》からが峠《たうげ》になる筈《はず》。
唯《と》見《み》ると、何《ど》うしたことかさ、今《いま》いふ其《その》
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