、天井《てんじやう》は低《ひく》いが、梁《うつばり》は丸太《まるた》で二抱《ふたかゝへ》もあらう、屋《や》の棟《むね》から斜《なゝめ》に渡《わた》つて座敷《ざしき》の果《はて》の廂《ひさし》の処《ところ》では天窓《あたま》に支《つか》へさうになつて居《ゐ》る、巌丈《がんぢやう》な屋造《やづくり》、是《これ》なら裏《うら》の山《やま》から雪頽《なだれ》が来《き》てもびくともせぬ。
特《こと》に炬燵《こたつ》が出来《でき》て居《ゐ》たから私《わたし》は其《その》まゝ嬉《うれ》しく入《はい》つた。寐床《ねどこ》は最《も》う一|組《くみ》同一《おなじ》炬燵《こたつ》に敷《し》いてあつたが、旅僧《たびそう》は之《これ》には来《きた》らず、横《よこ》に枕《まくら》を並《なら》べて、火《ひ》の気《け》のない臥床《ねどこ》に寐《ね》た。
寐《ね》る時《とき》、上人《しやうにん》は帯《おび》を解《と》かぬ、勿論《もちろん》衣服《きもの》も脱《ぬ》がぬ、着《き》たまゝ丸《まる》くなつて俯向形《うつむきなり》に腰《こし》からすつぽりと入《はい》つて、肩《かた》に夜具《やぐ》の袖《そで》を掛《か》けると手《て》を突《つ》いて畏《かしこま》つた、其《そ》の様子《やうす》は我々《われ/\》と反対《はんたい》で、顔《かほ》に枕《まくら》をするのである。程《ほど》なく寂然《ひつそり》として寝《ね》に着《つ》きさうだから、汽車《きしや》の中《なか》でもくれ/″\いつたのは此処《こゝ》のこと、私《わたし》は夜《よ》が更《ふ》けるまで寐《ね》ることが出来《でき》ない、あはれと思《おも》つて最《も》う暫《しばら》くつきあつて、而《そ》して諸国《しよこく》を行脚《あんぎや》なすつた内《うち》のおもしろい談《はなし》をといつて打解《うちと》けて幼《おさな》らしくねだつた。
すると上人《しやうにん》は頷《うなづ》いて、私《わし》は中年《ちうねん》から仰向《あふむ》けに枕《まくら》に着《つ》かぬのが癖《くせ》で、寐《ね》るにも此儘《このまゝ》ではあるけれども目《め》は未《ま》だなか/\冴《さ》えて居《を》る、急《きふ》に寐着《ねつ》かれないのはお前様《まへさま》と同一《おんなし》であらう。出家《しゆつけ》のいふことでも、教《おしへ》だの、戒《いましめ》だの、説法《せつぱふ》とばかりは限《かぎ》らぬ、若《わか
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