ど》つて銭儲《ぜにもう》けだ。」
 ぎい、ちよん、ぎい、ちよんと、堤《どて》の草に蟋蟀《きりぎりす》の紛れて鳴くのが、やがて分れて、大川に唯《ただ》艪《ろ》の音のみ、ぎい、と響く。ぎよ、ぎよツと鳴くのは五位鷺《ごいさぎ》だらう。
「なむあみだぶつ。あゝ、いゝ月だ。」
 と寂《さび》しく掉《ふ》つた、青道心の爺《じじい》の頭は、ぶくりと白茄子《しろなす》が浮いたやうで、川幅は左右へ展《ひら》け、船は霧に包まれた。
「変な、月のほめやうだな、はゝゝ。」
 と座長は笑ひ消しつつ、
「おい、姉《ねえ》や、何《ど》うした。」
 と言ふ。水しやくひの娘は、剥《む》いた玉子《たまご》を包みあへぬ、あせた緋金巾《ひがなきん》を掻合《かきあわ》せて、鵜《う》が赤い魚《うお》を銜《くわ》へたやうに、舳《みよし》にとぼんと留《とま》つて薄黒い。通例だと卑下をしても、あとから乗つて艫《とも》の方にあるべき筈《はず》を、勝手を知つた土地のものの所為《せい》だらう。出《で》しなに、川施餓鬼《かわせがき》で迷つた時、船頭が入れたかんてらの火より前《さき》に乗つて、舳にちよこなんと控へたのであつた。
 実は、此《これ
前へ 次へ
全18ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング