》は心すべき事だつた。……船につくあやかしは、魔の影も、鬼火も、燃ゆる燐《りん》も、可恐《おそろし》き星の光も、皆、ものの尖端《せんたん》へ来て掛《かか》るのが例だと言ふから。
 やがて、其の験《しるし》がある。
 時に、さすがに、娘気《むすめぎ》の慇懃心《いんぎんごころ》か、あらためて呼ばれたので、頬被《ほおかぶ》りした手拭《てぬぐい》を取つて、俯《うつ》むいた。
「あら、きれい。」
「まあ、光るわねえ。」
 安来《やすぎ》ぶしの婦《おんな》は、驚駭《おどろき》の声を合せた。
「一寸《ちょっと》、何、其の簪《かんざし》は。」
 銀杏返《いちょうがえし》もぐしや/\に、掴《つか》んで束《たば》ねた黒髪に、琴柱形《ことじがた》して、晃々《きらきら》と猶《な》ほ月光に照映《てりか》へる。
「お見せ。」……とも言はず、女太夫《おんなたゆう》が、間近《まぢか》から手を伸《のば》すと、逆らふ状《さま》もなく、頬を横に、鬢《びん》を柔順《すなお》に、膝《ひざ》の皿に手を置いて、
「ほゝゝゝゝ。」
 と、薄馬鹿《うすばか》が馬鹿笑《ばかわらい》に笑つたのである。
 年増《としま》は思はず、手を引いて
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