「おや/\、塔婆《とうば》も一本、流れ灌頂《かんちょう》と云ふ奴だ。……大変なものに乗せるんだな。」
 座長が真《まっ》さきにのりかゝつて、ぎよつとした。三艘《さんぞう》のうちの、一番|大形《おおがた》に見える真中の船であつた。
 が、船《ふな》べりを舐《な》めて這《は》ふやうに、船頭がかんてらを入れたのは、端の方の古船《ふるぶね》で。
「旦那《だんな》、此方《こっち》だよ。……へい、其《それ》は流れ灌頂ではござりましねえ。昨日《きのう》、盂蘭盆《うらぼん》で川施餓鬼《かわせがき》がござりましたでや。」
「流れ灌頂と兄弟分だ。」
「可厭《いや》だわねえ。」
「一蓮托生《いちれんたくしょう》と、さあ、皆《みんな》乗つたか。」
 と座長が捌《さば》く。
「小父《おじ》さん、船幽霊《ふなゆうれい》は出ないこと。」
 と若い女が、ぢやぶ/\、ぢやぶ/\と乗出《のりだ》す中に、怯《おび》えた声する。
 兀《は》げたのだらう。月に青道心《あおどうしん》のやうで、さつきから黙《だんま》り家《や》の老人《としより》が、
「船幽霊は大海《だいかい》のものだ。潟《かた》にはねえなあ。」
「あれば生擒《いけ
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