をするのに、いゝ手本だ。……まうけさして貰《もら》つた礼心《れいごころ》に、ちゃんとした[#「ちゃんとした」はママ]処《ところ》を教へてあげよう。置土産《おきみやげ》さ、さん子さん、お唄ひよ。」
「可厭《いや》、獺《かわうそ》に。……気味が悪いわ、口うつしに成るぢやないの。」
 と少《わか》いのが首とともに肩を振る。
「獺に教へれば、芸の威光さ。ぢやあ、私が唄ひながら。――可《い》いかい、――安来《やすぎ》千軒《せんげん》名の出た処《ところ》……」
 もう尤《もっと》も微酔《ほろよい》機嫌で、
「さあ、遣《や》つて御覧よ。……鰌《どじょう》すくひさ。」
「ほゝゝ。」
 と娘は唯《ただ》笑つた。
 月にも、霧にも、流《ながれ》の音にも、一座の声は、果敢《はか》なき蛾《ひとりむし》のやうに、ちら/\と乱るゝのに、娘の笑声《わらいごえ》のみ、水に沈んで、月影の森に遠く響いた。
「一寸《ちょっと》、お遣りつたら。」
「ほゝゝ。」
「笑つてないでさ、可《い》いかい。――鰌すくひの骨髄と言ふ処《ところ》を教へるからよ。」
「あれ、私はな、鰌すくふのでござんせぬ。」
「おや、何をしてるんだね。」

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