ばがた》へ浮べようとして出て来たのだが、しこみものの鮨《すし》、煮染《にしめ》、罎《びん》づめの酒で月を見るより、心太《ところてん》か安いアイスクリイムで、蚊帳《かや》で寝た方がいゝ、あとの女たちや、雑用宿《ぞうようやど》を宿場《しゅくば》へ浮《うか》れ出《だ》す他《ほか》の男どもは誰も来ない。また来ない方の人数《にんず》が多かつた。
「おい、お前《まい》さん。」
 と、太夫《たゆう》の年増《としま》は、つゞけて鷹揚《おうよう》に、娘を呼んだ。
 流《ながれ》の案山子《かかし》は、……ざぶりと、手を留《と》めた。が、少しは気取りでもする事か、棒杭《ぼうぐい》に引《ひっ》かゝつた菜葉《なっぱ》の如く、たくしあげた裾《すそ》の上へ、据腰《すえごし》に笊《ざる》を構へて、頬被《ほおかぶ》りの面《おもて》を向けた。目鼻立《めはなだち》は美しい。で、濡《ぬ》れ/\として艶《つや》ある脛《はぎ》は、蘆間《あしま》に眠る白鷺《しらさぎ》のやうに霧を分けて白く長かつた。
「感心――なか/\うまいがね、少し手が違つてるよ。……さん子さん、一寸《ちょっと》唄《うた》つてお遣《や》り。村方《むらかた》で真似
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