倍《としばい》な船頭である。
此の唯《ただ》一つの灯《ともしび》が、四五人の真中へ入つたら、影燈籠《かげどうろう》は、再び月下に、其のまゝくる/\と廻るであらう。
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ざぶり、 ざぶり、 ざぶ/\、 ざあ――
[#ここで字下げ終わり]
髪を当世にした、濃い白粉《おしろい》の大柄の年増《としま》が、
「おい、姉《ねえ》さん。」
と、肩幅広く、塘堤《どて》ぶちへ顕《あら》はれた。立女形《たておやま》が出たから、心得たのであらう、船頭め、かんてらの灯《ひ》を、其の胸のあたりへ突出《つきだ》した。首抜《くびぬき》の浴衣《ゆかた》に、浅葱《あさぎ》と紺《こん》の石松《いしまつ》の伊達巻《だてまき》ばかり、寝衣《ねまき》のなりで来たらしい。恁《こ》う照《てら》されると、眉毛《まゆげ》は濃く、顔は大《おおき》い。此処《ここ》から余り遠くない、場末の某座《ぼうざ》に五日間の興行に大当りを取つた、安来節座中《やすぎぶしざちゅう》の女太夫《おんなたゆう》である。
あとも一座で。……今夜、五日目の大入《おおいり》を刎《は》ねたあとを、涼《すず》みながら船を八葉潟《やつ
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