つけた畚《びく》の中へ、ト腰を捻《ひね》り状《ざま》に、ざあと、光に照らして移し込む。
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ざぶり、   ざぶり、   ざぶ/\、   ざあ――
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 おなじ事を繰返す。腰の影は蘆《あし》の葉に浮いて、さながら黒く踊るかと見えた。
 町の方から、がや/\と、婦《おんな》まじりの四五人の声が、浮いた跫音《あしおと》とともに塘堤《どて》をつたつて、風の留《とま》つた影燈籠《かげどうろう》のやうに近づいて、
「何だ、何だ。」
「あゝ、行《や》つてるなあ。」
 と、なぞへに蘆の上から、下のその小流《こながれ》を見て、一同に立留《たちどま》つた。
「うまく行《や》るぜ。」
「真似をする処《ところ》は、狐か、狸だらうぜ。それ、お前によく似て居らあ。」
「可厭《いや》。」
 と甘たれた声を揚げて、男に摺寄《すりよ》つたのは少《わか》い女で。
「獺《かわうそ》だんべい、水の中ぢや。」
 と、いまの若いのの声に浮かれた調子で、面《つら》を渋黒《しぶくろ》くニヤ/\と笑つて、あとに立つたのが、のそ/\と出たのは、一|挺《ちょう》の艪《ろ》と、かんてらをぶら下げた年
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