《かわぐち》で、此《こ》の田つゞきの小流《こながれ》との間《あいだ》には、一寸《ちょっと》高く築《きず》いた塘堤《どて》があるが、初夜《しょや》過ぎて町は遠し、村も静《しずま》つた。場末の湿地で、藁屋《わらや》の侘《わび》しい処《ところ》だから、塘堤一杯の月影も、破窓《やれまど》をさす貧《まずし》い台所の棚の明るい趣《おもむき》がある。
遠近《おちこち》の森に棲《す》む、狐《きつね》か狸《たぬき》か、と見るのが相応《ふさわ》しいまで、ものさびて、のそ/\と歩行《ある》く犬さへ、梁《はり》を走る古鼠《ふるねずみ》かと疑はるゝのに――
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ざぶり、 ざぶり、 ざぶ/\、 ざあ――
ざぶり、 ざぶり、 ざぶ/\、 ざあ――
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小豆《あずき》あらひと云ふ変化《へんげ》を想はせる。……夜中に洗濯の音を立てるのは、小流《こながれ》に浸つた、案山子《かかし》同様の其の娘だ。……
霧《きり》の這《は》ふ田川《たがわ》の水を、ほの白《じろ》い、笊《ざる》で掻《か》き/\、泡沫《あわ》を薄青く掬《すく》ひ取つては、細帯《ほそおび》に
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