長く、斧を片手に、掌《てのひら》にその月を捧げて立てる姿は、潟《かた》も川も爪《つま》さきに捌《さば》く、銀河に紫陽花《あじさい》の花籠《はなかご》を、かざして立てる女神《じょしん》であつた。
顧《かえり》みて、
「ほゝゝ。」
微笑《ほほえ》むと斉《ひと》しく、姿は消えた。
壁の裏が行方《ゆくえ》であらう。その破目《やれめ》に、十七日の月は西に傾いたが、夜《よる》深く照りまさつて、拭《ぬぐ》ふべき霧もかけず、雨も風もあともない。
這《は》へる蔦《つた》の白露《しらつゆ》が浮いて、村遠き森が沈んだ。
皎々《こうこう》として、夏も覚えぬ。夜ふけのつゝみを、一行は舟を捨てて、鯰《なまず》と、鰡《ぼら》とが、寺詣《てらまいり》をする状《さま》に、しよぼ/\と辿《たど》つて帰つた。
[#ここから2字下げ]
ざぶり、 ざぶり、 ざぶ/\、 ざあ――
ざぶり、 ざぶり、 ざぶ/\、 ざあ――
[#ここで字下げ終わり]
「しいツ。」
「此処《ここ》だ……」
「先刻《さっき》の処《ところ》。」
と、声の下で、囁《ささや》きつれると、船頭が真先《まっさき》に、続いて
前へ
次へ
全18ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング