青坊主《あおぼうず》が四《よ》つに這《は》つたのである。

 ――後《のち》に、一座の女たち――八人居た――楽屋一同、揃《そろ》つて、刃《は》を磨いた斧《おの》の簪《かんざし》をさした。が、夜《よる》寝《ね》ると、油、白粉《おしろい》の淵《ふち》に、藻《も》の乱るゝ如く、黒髪を散らして七転八倒《しちてんばっとう》する。
「痛い。」
「痛い。」
「苦しい。」
「痛いよう。」
「苦しい。」
 唯《ただ》一人……脛《はぎ》すらりと、色白く、面長《おもなが》な、目の涼《すず》しい、年紀《とし》十九で、唄《うた》もふしも何《なん》にも出来ない、総踊《そうおど》りの時、半裸体に蓑《みの》をつけて、櫂《かい》をついてまはるばかりのあはれな娘のみ、斧《おの》を簪《かざ》して仔細ない。髪にきら/\と輝くきれいさ。



底本:「日本幻想文学集成1 泉鏡花」国書刊行会
   1991(平成3)年3月25日初版第1刷発行
   1995(平成7)年10月9日初版第5刷発行
底本の親本:「泉鏡花全集」岩波書店
   1940(昭和15)年発行
初出:「苦楽」
   1924(大正13)年5月
※ルビは新仮名と
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