。間《ま》は一面に白く光つた、古畳《ふるだたみ》の目は一《ひと》つ一《びと》つ針を植ゑたやうである。
「あれ。」
「可恐《こわ》い、電《いなびかり》。」
と女たちは、入《はい》りもやらず、土間《どま》から框《かまち》へ、背《せな》、肩を橋にひれ伏した。
「ほゝゝ、可恐《こわ》いの?」
娘は静《しずか》に、其の壁に向つて立つと、指をしなやかに簪《かんざし》を取つた。照らす光明《こうみょう》に正《まさ》に視《み》る、簪は小さな斧《おの》であつた。
斧を取つて、唯《ただ》一面の光を、端から、丁《ちょう》と打ち、丁と削り、こと/\こと/\と敲《たた》くと、その削りかけは、はら/\と、光る柳の葉、輝く桂《かつら》の実にこぼれて、畳《たたみ》にしき、土間《どま》に散り、はた且《かつ》うつくしき工人の腰にまとひ、肩に乱れた。と見る/\風に従つて、皆消えつつ、やがて、一輪、寸毫《すんごう》を違《たが》へざる十七日の月は、壁の面《おもて》に掛《かか》つたのである。
残れる、其の柳、其の桂は、玉《たま》にて縫《ぬ》へる白銀《しろがね》の蓑《みの》の如く、腕《かいな》の雪、白脛《しらはぎ》もあらはに
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