、お伺いする処でした。」
驚破す、再び、うぐい亭の当夜の嫖客《ひょうかく》は――渠《かれ》であった。
三人のめぐりあい。しかし結末にはならない。おなじ廓《くるわ》へ、第一歩、三人のつまさきが六つ入交《いれまじ》った時である。
落葉のそよぐほどの、跫音《あしおと》もなしに、曲尺《かねじゃく》の角を、この工場から住居《すまい》へ続くらしい、細長い、暗い土間から、白髪《しらが》がすくすくと生えた、八十を越えよう、目口も褐漆《かっしつ》に干からびた、脊の低い、小さな媼《ばあ》さんが、継はぎの厚い布子《ぬのこ》で、腰を屈《かが》めて出て来た。
蒼白《まっさお》になって、お町があとへ引いた。
「お姥《ばあ》さん、見物をしていますよ。」
と鷹揚《おうよう》に、先代の邸主は落《おち》ついて言った。
何と、媼《ばば》は頤《あご》をしゃくって、指二つで、目を弾《はじ》いて、じろりと見上げたではないか。
「無断で、いけませんでしたかね。」
外套氏は、やや妖変《ようへん》を感じながら、丁寧に云ったのである。
「どうなとせ。」
唾《つば》と泡が噛合《かみあ》うように、ぶつぶつと一言《ひとこと》い
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