古狢
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)思えば可《い》い
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)お花見|手拭《てぬぐい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「匸<扁」、第4水準2−3−48]
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「しゃッ、しゃッ、しゃあっ!……」
寄席のいらっしゃいのように聞こえるが、これは、いざいざ、いでや、というほどの勢いの掛声と思えば可《い》い。
「しゃあっ! 八貫―ウん、八貫、八貫、八貫と十《と》ウ、九貫か、九貫と十ウだ、……十貫!」
目の下およそ八寸ばかり、濡色の鯛《たい》を一枚、しるし半纏《ばんてん》という処を、めくら縞《じま》の筒袖《つつッぽ》を両方大肌脱ぎ、毛だらけの胸へ、釣身《つりみ》に取って、尾を空に、向顱巻《むこうはちまき》の結びめと一所に、ゆらゆらと刎《は》ねさせながら、掛声でその量《めかた》を増すように、魚《うお》の頭《かしら》を、下腹から膝頭《ひざがしら》へ、じりじりと下ろして行くが、
「しゃッ、しゃッ。
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