冥途《めいど》の首途《かどで》を導くようじゃありませんか、五月闇《さつきやみ》に、その白提灯を、ぼっと松林の中に、という。……成程、もの寂しさは、もの寂しい……
 話はちょっと前後した――うぐい亭では、座つきに月雪花。また少々|慾張《よくば》って、米俵だの、丁字《ちょうじ》だの、そうした形の落雁《らくがん》を出す。一枚《ひとつ》ずつ、女の名が書いてある。場所として最も近い東の廓《くるわ》のおもだった芸妓《げいしゃ》連が引札《ひきふだ》がわりに寄進につくのだそうで。勿論、かけ離れてはいるが、呼べば、どの妓《おんな》も三味線《さみせん》に応ずると言う。その五年前、六月六日の夜――名古屋の客は――註しておくが、その晩以来、顔馴染にもなり、音信《おとずれ》もするけれども、その姓名だけは……とお町が堅く言わないのだそうであるから、ただ名古屋の客として。……あとを続けよう。

「――みんな、いい女らしいね。見た処。中でも、俵のなぞは嬉しいよ。ここに雪形に、もよ、というのは。」
「飛んだ、おそまつでございます。」
 と白い手と一所に、銚子《ちょうし》がしなうように見えて、水色の手絡《てがら》の円髷《
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