ざんまい》の跡とも、山窩《さんか》が甘い水を慕って出て来るともいう。人の灰やら、犬の骨やら、いずれ不気味なその部落を隔てた処に、幽《かすか》にその松原が黒く乱れて梟《ふくろ》が鳴いているお茶屋だった。――※[#「魚+成」、第3水準1−94−43]《うぐい》、鮠《はや》、鮴《ごり》の類は格別、亭で名物にする一尺の岩魚《いわな》は、娘だか、妻女だか、艶色《えんしょく》に懸相《けそう》して、獺《かわおそ》が件《くだん》の柳の根に、鰭《ひれ》ある錦木《にしきぎ》にするのだと風説《うわさ》した。いささか、あやかしがついていて、一層寂れた。鵜《う》の啣《くわ》えた鮎《あゆ》は、殺生ながら賞翫《しょうがん》しても、獺の抱えた岩魚は、色恋といえども気味が悪かったものらしい。
 今は、自動車さえ往来《ゆきき》をするようになって、松蔭の枝折戸まで、つきの女中が、柳なんぞの縞《しま》お召、人懐《ひとなつっこ》く送って出て、しとやかな、情のある見送りをする。ちょうど、容子《ようす》のいい中年増が給仕に当って、確《たしか》に外套氏がこれは体験した処である。ついでに岩魚の事を言おう。瀬波に翻《ひるが》える状《さま
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