。月には翡翠《ひすい》の滝の糸、雪には玉の簾《すだれ》を聯《つら》ねよう。
 それと、戸前《かどさき》が松原で、抽《ぬきん》でた古木もないが、ほどよく、暗くなく、あからさまならず、しっとりと、松葉を敷いて、松毬《まつかさ》まじりに掻《か》き分けた路も、根を畝《うね》って、奥が深い。いつも松露の香がたつようで、実際、初茸《はつたけ》、しめじ茸は、この落葉に生えるのである。入口に萩の枝折戸《しおりど》、屋根なしに網代《あじろ》の扉《と》がついている。また松の樹を五《いつ》株、六《む》株。すぐに石ころ道が白く続いて、飛地のような町屋の石を置いた板屋根が、山裾に沈んで見えると、そこにその橋がある。
 蝙蝠《こうもり》に浮かれたり、蛍《ほたる》を追ったり、その昔子供等は、橋まで来るが、夜は、うぐい亭の川岸は通り得なかった。外套氏のいう処では、道の途中ぐらい、麓《ふもと》の出張った低い磧《かわら》の岸に、むしろがこいの掘立小屋《ほったてごや》が三つばかり簗《やな》の崩れたようなのがあって、古俳句の――短夜《みじかよ》や(何とかして)川手水《かわちょうず》――がそっくり想出された。そこが、野三昧《の
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