た草履が、笹葉《ささっぱ》でも踏む心持《こころもち》にバサリとする。……暗い中に、三つ並んでいるんです。」
「あの、鹿落。」
 と、瞳を凝らした、お町の眉に、その霧が仄《ほのか》にうつッた。
「三階の裏階子を下りた処だわね、三つ並んだ。」
「どうかしたかい。」
「どうして……それから。」
 お町は聞返して、また息を引いた。
「その真中《まんなか》の戸が、バタン……と。」
「あら……」
「いいえさ、怯《おど》かすんじゃあない。そこで、いきなり開いたんだと、余計驚いたろうが――開いていたんだよ。ただし、開いていた、その黒い戸の、裏桟に、白いものが一条《ひとすじ》、うねうねと伝《つたわ》っている。」
「…………」
「どこからか、細目に灯《あかり》が透くのかしら?……その端の、ふわりと薄※[#「匸<扁」、第4水準2−3−48]《うすひら》ったい処へ、指が立って、白く刎《は》ねて、動いたと思うと、すッと扉《と》が閉《しま》った。招いたような形だが、串戯《じょうだん》じゃあない、人が行ったので閉めたのさ。あとで思ってもまったく色が白かった、うつくしい女の手だよ――あ、どうした。」
 その唇が、眉と
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