のような、獣のような異体《いてい》な黄色い脚を、ぬい、と端折《はしょ》った、傍若無人で。
(ボーン、ボーン、ボーン、)と云うのが、ねばねばと、重っくるしく、納豆の糸を引くように、そして、点々《ぽちぽち》と切れて、蒼蠅の羽音やら、奴《やつ》の声やら分らぬ。
 そのまま、ふわりとして、飜然《ひらり》と上《あが》った。物干の暗黒《やみ》へ影も隠れる。
(あれ。)
 と真前《まっさき》に言ったはお三輪で。
(わ、)とまた言った人がある。
 さあ、膝で摺《ず》る、足で退《の》く、ばたばたと二階の口まで駆出したが、
(ええ)と引返《ひっかえ》したは誰だっけ。……蠅が背後《うしろ》から縋《すが》ったらしい。
 物干から、
(やあ、小鳥のように羽打つ、雑魚《ざこ》のように刎《は》ねる。はて、笑止じゃの。名告《なの》れ、名告らぬか、さても卑怯な。やいの、殿たち。上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]たち。へへへ、人間ども。ボーン、ボーン、ボーン、あれ、それそれ転ぶわ、※[#「足へん+倍のつくり」、第3水準1−92−37]《の》めるわ、這《は》うわ。とまったか、たかったか。誰じゃ、
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