た》の中を出《で》され、ボーンと。――やあ、殿、上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》たち、私《わし》がの、今ここを引取るついでに、蒼蠅を一ツ申そう。ボーンと飛んで、額、頸首《えりくび》、背《せなか》、手足、殿たちの身体《からだ》にボーンと留まる、それを所望じゃ。物干へ抜いて、大空へ奪《と》って帰ろう。名告《なの》らしゃれ。蠅がたからば名告らしゃれ。名告らぬと卑怯《ひきょう》なぞ。人間は卑怯なものと思うぞよ。笑うぞよ……可《よ》いか、蒼蠅を忘れまい。
蠅よ、蠅よ、蒼蠅よ、ボーンと出され、おじゃった! おお!)
一座残らず、残念ながら動揺《どよ》めいた。
トふわりと起《た》ったが、その烏の死骸をぶら下げ、言おうようの無い悪臭を放って、一寸、二寸、一尺ずつ、ずるずると引いた裾《すそ》が、長く畳を摺《す》ったと思うと、はらりと触ったかして、燭台《しょくだい》が、ばったり倒れた。
その時、捻向《ねじむ》いて、くなくなと首を垂れると、摺《ず》った後褄《うしろづま》を、あの真黒《まっくろ》な嘴《くちばし》で、ぐい、と啣《くわ》えて上げた、と思え。……鳥
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