なか》の底から、ただ一ツ、カラカラと湧上《わきあが》ったような車の音。陰々と響いて、――あけ方早帰りの客かも知れぬ――空へ舞上ったように思うと、凄《すご》い音がして、ばッさりと何か物干の上へ落ちた。
(何だ!)
と言うと、猛然として、ずんと立って、堪えられぬ……で、地響《じひびき》で、琴の師匠がずかずかと行って、物干を覗《のぞ》いたっけ。
裸脱《はだぬ》ぎの背に汗を垂々《たらたら》と流したのが、灯《ともし》で幽《かすか》に、首を暗夜《やみ》へ突込《つっこ》むようにして、
(おお、稲妻が天王寺の森を走る、……何じゃ、これは、烏の死骸をどうするんじゃい。)と引掴《ひッつか》んで来て、しかも癪《しゃく》に障った様子で、婆々《ばばあ》の前へ敲《たた》きつけた。
あ、弱った。……
その臭気といったらない。
皆《みんな》、ただ呼吸《いき》を詰めた。
婆々が、ずらずらとその蛆《うじ》の出そうな烏の死骸を、膝の前へ、蒼《あお》い頤《おとがい》の下へ引附けた。」
二十七
「で、頭《ず》を下げて、熟《じっ》と見ながら、
(蠅《はえ》よ、蠅よ、蒼蠅《あおばえ》よ。一つ腸《はらわ
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