吉原新話
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)階子段《はしごだん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)お茶|聞《きこ》しめせ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》く
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       一

 表二階の次の六畳、階子段《はしごだん》の上《あが》り口、余り高くない天井で、電燈《でんき》を捻《ひね》ってフッと消すと……居合わす十二三人が、皆影法師。
 仲《なか》の町《ちょう》も水道尻《すいどうじり》に近い、蔦屋《つたや》という引手茶屋で。間も無く大引《おおび》けの鉄棒《かなぼう》が廻ろうという時分であった。
 閏《うるう》のあった年で、旧暦の月が後《おく》れたせいか、陽気が不順か、梅雨の上りが長引いて、七月の末だというのに、畳も壁もじめじめする。
 もっともこの日、雲は拭《ぬぐ》って、むらむらと切れたが、しかしほんとうに霽《あが》ったのでは無いらしい。どうやら底にまだ雨気《あまき》
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