がありそうで、悪く蒸す……生干《なまび》の足袋に火熨斗《ひのし》を当てて穿《は》くようで、不気味に暑い中に冷《ひや》りとする。
気候はとにかく、八畳の表座敷へ、人数が十人の上であるから、縁の障子は通し四枚とも宵の内から明放したが、夜桜、仁和加《にわか》の時とは違う、分けて近頃のさびれ方。仲の町でもこの大一座は目に立つ処へ、浅間《あさま》、端近《はしぢか》、戸外《おもて》へ人立ちは、嬉しがらないのを知って、家《うち》の姉御《あねご》が気を着けて、簾《すだれ》という処を、幕にした。
廂《ひさし》へ張って、浅葱《あさぎ》に紺の熨斗《のし》進上、朱鷺色《ときいろ》鹿《か》の子のふくろ字で、うめという名が一絞《ひとしぼり》。紅《くれない》の括紐《くくりひも》、襷《たすき》か何ぞ、間に合わせに、ト風入れに掲げたのが、横に流れて、地《じ》が縮緬《ちりめん》の媚《なまめ》かしく、朧《おぼろ》に颯《さっ》と紅梅の友染を捌《さば》いたような。
この名は数年前、まだ少《わか》くって見番の札を引いたが、家《うち》の抱妓《かかえ》で人に知られた、梅次というのに、何か催《もよおし》のあった節、贔屓《ひいき》
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