のですから、御一味を下さる方も、かねて徹夜というお覚悟です。処で、宵から一晩の註文で、いや、随分方々へ当って見ました。
 料理屋じゃ、のっけから対手《あいて》にならず、待合申すまでも無い、辞退。席貸をと思いましたが、やっぱり夜一夜《よっぴて》じゃ引退《ひきさが》るんです。第一、人数が二十人近くで、夜明しと来ては、成程、ちょっとどこといって当りが着きません。こりゃ旅籠屋《はたごや》だ、と考えました。
 これなら大丈夫、と極めた事にすると、どういたして、まるで帳場で寄せつけません、無理もございますまい。旅籠屋は人の寝る処を、起きていて饒舌《しゃべ》ろうというんです。傍《はた》が御迷惑をなさる、とこの方を関所破りに扱います、困りました。
 寺方はちょっと聞くと可《い》いようで、億劫《おっくう》ですし、教会へ持込めば叱られます。離れた処で寮なんぞ借りられない事もありませんが――この中にはその時も御一所で、様子を御存じの方もお見えになります、昨年の盆時分、向島の或《ある》別荘で、一会催した事があるんです。
 飛んだ騒ぎで、その筋に御心配を掛けたんです。多人数一室へ閉籠《とじこも》って、徹夜で、密
前へ 次へ
全97ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング