、望ましいは婦人《おなご》どもじゃ、何と上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》を奪ろうかの。)
 婦人《おんな》たちのその時の様子は、察して可《よ》かろう。」

       二十六

「奴《やつ》は勝ほこった体《てい》で、毛筋も動かぬその硝子面《ビイドロめん》を、穴蔵の底に光る朽木のように、仇艶《あだつや》を放って※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》しながら、
(な、けれども、殿、殿たちは上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》を庇《かば》わしゃろうで、懇《ねんごろ》申した効《かい》に、たってとはよう言わぬ。選まっしゃれ、選んで指さっしゃれ、それを奪《と》ろう。……奪ろう。……それを奪ろう! やいの、殿。)
 と捲《まく》し掛けて、
(ここには見えぬ、なれども、殿たちの妻、子、親、縁者、奴婢《しもべはした》、指さっしゃれば、たちどころに奪って見しょう。)
 と言語道断な事を。
 とはたはたと廂《ひさし》の幕が揺動いて、そのなぐれが、向う三階の蚊帳《かや》を煽《あお》った、その時、雨を持った風が颯
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