す。面は内証で取るが可《い》い、今の内ならちっとも分らん、電燈《でんき》を点《つ》けてからは消え憎《にく》くなるだろう。)
 子爵はどこまでも茶番だ、と信ずるらしい。
 ……後で聞くと、中には、対方《あいて》を拵《こしら》えて応答《うけこたえ》をする、子爵その人が、悪戯をしているんだ、と思ったのもあったんだ。
(明るさ、暗さの差別は無いが、の、の、殿、私《わし》がしょう事、それをせねば、日が出ましても消えはせぬが。)
(可《よし》、何をしに来たんだ、ここへ。……まあ、仮にそっちが言う通りのものだとすると。)
(されば、さればの、殿。……)
 とまた落着いたように、ぐたりと胸を折った、蹲《うずくま》った形が挫《ひしゃ》げて見えて、
(身代りが、――その儀《こと》で、やいの、の、殿、まだ「とりあげ」が出来ぬに因って、一つな、このあたりで、間に合わせに、奪《と》ろう!……さて、どれにしょうぞ、と思うて見入って、視《なが》め廻《まわ》いていたがやいの、のう、殿。)
 皆《みんな》、――黙った。
(殿、ふと気紛《きまぐ》れて出て、思懸《おもいがけ》のう懇《ねんごろ》申した験《しるし》じゃ、の、殿
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