くと、ものを云う時も、奴《やつ》、薄笑《うすわらい》をする時も、さながら彫刻《ほりつ》けたもののようで静《じっ》としたッきり、口も頬もビクとも動かぬ。眉……眉はぬっぺりとして跡も無い、そして、手拭《てぬぐい》を畳んだらしいものを、額下りに、べたん、と頭へ載せているんだ。
(いや、いや、)
 と目鼻の動かぬ首を振って、
(除《と》るまい、除らぬは慈悲じゃ。この中には、な、画《え》を描《か》き彫刻《ほりもの》をする人もある、その美しいものは、私等《わしら》が国から、遠く指《ゆびさ》す花盛《はなざかり》じゃ、散らすは惜しいに因って、わざと除らぬぞ!……何が、気の弱い此方《こなた》たちが、こうして人間の面を被《かぶ》っておればこそ、の、私《わし》が顔を暴露《むきだ》いたら、さて、一堪《ひとたま》りものう、髯《ひげ》が生えた玩弄物《おもちゃ》に化《な》ろうが。)
(灯《あかり》を点《つ》けよう、何しろ。)
 と、幹事が今は蹌踉《よろ》けながら手探りで立とうとする。子爵が留めて、
(お待ちなさい。串戯《じょうだん》も嵩《こう》じると、抜差しが出来なくなる。誰か知らんが、悪戯《いたずら》がちと過ぎま
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