来ては攫《さら》えて行《ゆ》く……老若男女《ろうにゃくなんにょ》の区別は無い。釣針にかかった勝負じゃ、緑の髪も、白髪《しらが》も、顔はいろいろの木偶《でく》の坊。孫等《まごども》に人形の土産じゃがの、や、殿。殿たち人間の人形は、私等が国の玩弄物《おもちゃ》じゃがの。
 身代りになる美《よ》い婦《おんな》なぞは、白衣《びゃくえ》を着せて雛《ひな》にしょう。芋殻《いもがら》の柱で突立《つった》たせて、やの、数珠《じゅず》の玉を胸に掛けさせ、)
 いや、もう聞くに堪えん。
(まあ、面を取れ、真面目《まじめ》に話す。)と子爵が憤ったように言う。
(面、)
(面だ。)
 面だ、面だ、と囁《ささや》く声が、そこここに、ひそひそ聞えた。眠らずにいた連中には、残らず面に見えたらしい。
 成程、そう言えば、端近へ出てから、例の灯《あかり》の映る、その扁平《ひらった》い、むくんだ、が瓜核《うりざね》といった顔は、蒼黄色《あおきいろ》に、すべすべと、皺《しわ》が無く、艶《つや》があって、皮|一重《ひとえ》曇った硝子《ビイドロ》のように透通って、目が穴に、窪んで、掘って、眉が無い。そして、唇の色が黒い。気が着
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