血じゃぞや。な、殿。――此方衆《こなたしゅ》、鳥を殺さしゃるに、親子の恩愛を思わっしゃるか。獣を殺しますに、兄弟の、身代りの見境《みさかい》があるかいの。魚《うお》も虫も同様《おなじ》での。親があるやら、一粒種やら、可愛いの、いとしいの、分隔てをめされますかの。
 弱いものいうたら、しみしんしゃくもさしゃらず……毛を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》る、腹を抜く、背を刮《ひら》く……串刺《くしざし》じゃ、ししびしおじゃ。油で煮る、火炎《ほのお》で焼く、活《い》きながら鱠《なます》にも刻むげなの、やあ、殿。……餓《ひも》じくばまだしもよ、栄耀《えよう》ぐいの味醂蒸《みりんむし》じゃ。
 馴《な》れれば、ものよ、何がそれを、酷《ひど》いとも、いとしいとも、不便《ふびん》なとも思わず。――一ツでも繋《つな》げる生命《いのち》を、二羽も三頭《みッつ》も、飽くまでめさる。また食おうとさしゃる。
 誰もそれを咎《とが》めはせまい。咎めたとて聞えまい、私《わし》も言わぬ、私もそれを酷《むご》いと言わぬぞ。知らぬからじゃ、不便《ふびん》もいとしいも知らねばこそいの。――何と、殿、酷
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