なご》も十二三でなければ手に掛けないという、その清浄《しょうじょう》な梅漬を、汚穢くてならぬ、嘔吐すと云う。
(吐きたければ吐け、何だ。)
(二寸の蚯蚓《みみず》、三寸の蛇、ぞろぞろと嘔吐すが怪《け》しゅうないか。)
余り言種《いいぐさ》が自棄《やけ》だから、
(蛇や蚯蚓は構わんが、そこらで食って来た饂飩《うどん》なんか吐かれては恐縮だ。悪い酒を呷《あお》ったろう。佐川さん、そこらにあったら片附けておやんなさい。)
私は密《そっ》と押遣《おしや》って、お三輪と一所に婦人だちを背後《うしろ》へ庇《かば》って、座を開く、と幹事も退《の》いて、私に並んで楯《たて》になる。
次の間かけて、敷居の片隅、大きな畳の穴が開いた。そこを……もくもく、鼠に茶色がかった朦朧《もうろう》とした形が、フッ、と出て、浮いて、通った。――
どうやら、臀《しり》から前《さき》へ、背後《うしろ》向きに入るらしい。
ト前へ被《かぶ》さった筈《はず》だけれども、琴の師匠の裸の腹はやっぱり見えた。縁側の柱の元へ、音もなく、子爵に並んだ、と見ると、……気のせいだろう、物干の窓は、ワヤワヤと気勢《けはい》立って、奴《
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