とはどうだ。
 聞いちゃおられん、余《あんま》り残酷で。可加減《いいかげん》にしておきなさい。誰だか。)
 と凜々《りんりん》と云う。
 聞きも果てずに、
(酷《むご》いとは、酷いとは何じゃ、の、何がや、向うの縁側のその殿、酷いとはいの、やいの、酷いとはいの。)
 と畳掛けるように、しかも平気な様子。――向うの縁側のその殿――とは言種《いいぐさ》がどうだい。」

       二十四

「子爵が屹《きっ》となって、坐り直った様《よう》だっけ。
(知らんか、残酷という事を、知らなけりゃ聞かせようじゃないか、前へ出ないか、おい、こっちへ入らんか。)
(行《ゆ》こうのう、殿、その傍《そば》へ参ろうじゃがの、そこに汚穢《むさ》いものがあろうがや。早やそれが、汚穢うて汚穢うてならぬ。……退《の》けてくされませ、殿、)と言うんだ。
(汚《むさ》いもの、何がある。)
(小丼に入れた、青梅の紫蘇巻《しそまき》じゃ。や、香もならぬ、ふっふっ。ええ、胸悪やの、先刻《さっき》にから。……早く退《ど》けしゃらぬと、私《わし》も嘔吐《もど》そう、嘔吐そう、殿。)
 茶うけに出ていた甘露梅の事だ。何か、女児《おん
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