の目に、何が見えよう。……見えたら異事《こと》じゃぞよ、異事じゃぞよ、の。見えぬで僥倖《しあわせ》いの、……一目見たら、やあ、殿、殿たちどうなろうと思わさる。やあ、)
と口を、ふわふわと開けるかして、声が茫《ぼう》とする。」
二十三
「幹事が屹《きっ》として、
(誰です、お前さんは、)
と聞いた。この時、睡《ねむ》っていない人が一人でもあるとすれば、これは、私はじめ待構えた問《とい》だった。
(私《わし》か、私か、……殿、)
と聞返して、
(同じ仲間のものじゃが、やいの。)
(夥間《なかま》? 私たちの?)
(誰がや、……誰がや、)
と嘲《あざけ》るように二度言って、
(殿たちの。私《わし》が言うは近間に居る、大勢の、の、その夥間じゃ、という事いの。)
(何かね、廓《くるわ》の人かね。)
(されば、松の森、杉の林、山懐《やまふところ》の廓のものじゃ。)
(どこから来ました。)
(今日は谷中の下闇《したやみ》から、)
(佐川さん、)
と少し声高に、幹事が私を呼ぶじゃないか。
私は黙っていたんだ。
しばらくして、
(何をしに……)
(「とりあげ」をしょうため
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