が明けます。)
(誰や知らん。)
(はあ、閉める障子を明ける人がありますか。)
(棺の蓋《ふた》は一度じゃが、な、障子は幾度《いくたび》でも開けられる、閉《た》てられるがいの。)
(可《い》いから、閉めて下さい、夜が更けて冷えるんですから、)と幹事も不機嫌な調子で言う。
(惜《お》きましょ。透通いて見えん事は無けれどもよ……障子越は目に雲霧じゃ、覗《のぞ》くにはっきりとよう見えんがいの。)
(誰か、物干から覗くんですかね。)
(彼《かれ》にも誰《たれ》にも、大勢、な、)
(大勢、……誰です、誰です。)
 と、幹事もはじめて、こう逆に捻向《ねじむ》いて背後《うしろ》を見た。
(誰や言うてもな、殿、殿たちには分らぬ、やいの、形も影も、暗い、暗い、暗い、見えぬぞ、殿。)
(明るくしよう、)
 と幹事も何か急込《せきこ》んで、
(三輪《みい》ちゃん、電燈《でんき》を、電燈《でんき》を、)
 と云ったが、どうして、あの娘《こ》が動き得ますか。私の膝に、可哀相に、襟を冷たくして突臥《つっぷ》したッきり。
「措《お》きませ、措きませい。無駄な事よ、殿、地獄の火でも呼ばぬ事には、明るくしてかて、殿たち
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