じゃね、)と直きに傍《そば》だったので、琴の師匠は聞着けたが、
(いいえ、こちらの事で。)幹事が笑うと、欠伸《あくび》まじりで、それなり、うとうと。
(まあ、これは一番正体が知れていますが、それでも唐突《だしぬけ》に見ると吃驚《びっくり》しますぜ。で、やっぱりそれ、燭台《しょくだい》の傍《わき》の柱に附着《くッつ》いて胡坐《あぐら》でさ。妙に人相|形体《ぎょうてい》の変ったのが、三つとも、柱の処ですからね。私も今しがた敷居際の、仕切の壁の角を、摺出《ずりだ》した処ですよ。
 どうです、心得ているから可《い》いようなものの、それでいながら変に凄《すご》い。気の弱い方が、転寝《うたたね》からふっと覚際《さめぎわ》に、ひょっと一目見たら、吃驚《びっくり》しますぜ。
 魔物もやっぱり、蛇や蜘蛛《くも》なんぞのように、鴨居《かもい》から柱を伝って入って来ると見えますな。)
(可厭《いや》ですね。)
 婦人は二人、颯《さっ》と衣紋《えもん》を捌《さば》いて、※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子窓《れんじまど》の前を離れた、そこにも柱があったから。
 そして、お蘭さんが、
(ああ、また……開
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