た、勇気は一倍。
怪《け》しからん。鳥の羽に怯《おびや》かされた、と一の谷に遁込《にげこ》んだが、緋《ひ》の袴《はかま》まじりに鵯越《ひよどりご》えを逆寄《さかよ》せに盛返す……となると、お才さんはまだ帰らなかった。お三輪も、恐《こわ》いには二階が恐い、が、そのまま耳の疎《うと》いのと差対《さしむか》いじゃなお遣切《やりき》れなかったか、また袂《たもと》が重くなって、附着《くッつ》いて上《あが》ります。
それでも、やっぱり、物干の窓の前は、私はじめ悚然《ぞっ》としたっけ。
ばたばたと忙《せわ》しそうに皆《みんな》坐った、旧《もと》の処へ。
で、思い思いではあるけれども、各自《めいめい》暗がりの中を、こう、……不気味も、好事《ものずき》も、負けない気も交《まじ》って、その婆々《ばばあ》だか、爺々《じじい》だか、稀有《けぶ》な奴《やつ》は、と透かした。が居ない……」
梅次が、確めるように調子を圧《おさ》えて、
「居ないの、」
「まあ、お待ち、」
と腕を組んで、胡坐《あぐら》を直して、伸上って一呼吸《ひといき》した。
「そこで、連中は、と見ると、いやもう散々の為体《ていたらく》。
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