「まあ!」
「誰か趣向をしたんだね、……もっとも、昨夜《ゆうべ》の会は、最初から百物語に、白装束や打散《ぶっち》らし髪《がみ》で人を怯《おど》かすのは大人気無い、素《す》にしよう。――それで、電燈《でんき》だって消さないつもりでいたんだから。
けれども、その、しないという約束の裏を行《ゆ》くのも趣向だろう。集った中にや、随分|娑婆気《しゃばっけ》なのも少くない。きっと誰かが言合わせて、人を頼んだか、それとも自から化けたか、暗い中から密《そっ》と摺抜《すりぬ》ける事は出来たんだ。……夜は更けたし、潮時を見計らって、……確《たしか》にそれに相違無い。
トそういう自分が、事に因ると、茶番の合棒《あいぼう》、発頭人《ほっとうにん》と思われているかも知れん。先刻《さっき》入ったという怪しい婆々《ばばあ》が、今現に二階に居て、傍《はた》でもその姿を見たものがあるとすれば……似たようなものの事を私が話したんだから。
(誰かの悪戯《いたずら》です。)
(きっとそう、)
と婦人《おんな》だちも納得した。たちまち雲霧が晴れたように、心持もさっぱりしたろう、急に眠気《ねむけ》が除《と》れたような気がし
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