う》と座敷へ映るのであろう……と思う。欄干下《らんかんした》の廂《ひさし》と擦れ擦れな戸外《おもて》に、蒼白い瓦斯《がす》が一基《ひともと》、大門口《おおもんぐち》から仲の町にずらりと並んだ中の、一番末の街燈がある。
 時々光を、幅広く迸《ほとば》しらして、濶《かッ》と明るくなると、燭台《しょくだい》に引掛《ひっか》けた羽織の袂が、すっと映る。そのかわり、じっと沈んで暗くなると、紺の縦縞が消々《きえぎえ》になる。
 座中は目で探って、やっと一人の膝、誰かの胸、別のまた頬《ほお》のあたり、片袖《かたそで》などが、風で吹溜《ふきたま》ったように、断々《きれぎれ》に仄《ほのか》に見える。間を隔てたほどそれがかえって濃い、つい隣合ったのなどは、真暗《まっくら》でまるで姿が無い。
 ふと鼠色の長い影が、幕を斜違《はすっか》いに飜々《ひらひら》と伝わったり……円さ六尺余りの大きな頭が、ぬいと、天井に被《かぶ》さりなどした。
「今、起《た》ちなすったのは魯智深《ろちしん》さんだね。」
 と主《ぬし》は分らず声を懸ける。
「いや、私《わし》は胡坐《あぐら》掻《か》いています、どっしりとな。」
 とわざ
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