んで載せているものなんです。貴下《あなた》がお話しの通りなの、……佐川さん。)
 私は口が利けなかった。――無暗《むやみ》とね、火入《ひいれ》へ巻莨《まきたばこ》をこすり着けた。
 お三輪の影が、火鉢を越して、震えながら、結綿《ゆいわた》が円髷《まげ》に附着《くッつ》いて、耳の傍《はた》で、
(お組さん、どこのか、お婆さんは、内へ入って来なくッて?)
(お婆さん……)
 とぼやけた声。
(大きな声をおしでないよ。)
 と焦《じれ》ったそうにたしなめると、大きく合点《がってん》々々しながら、
(来ましたよ。)
 ときょとんとして、仰向いて、鉄瓶を撫《な》でて澄まして言うんだ。」
「来たの、」
 と梅次が蘇生《よみがえ》った顔になる。
「三人が入乱れて、その方へ膝を向けた。
 御注進の意気込みで、お三輪も、はらりとこっちへ立って、とんと坐って、せいせい言って、
(来たんですって。ちょいと、どこの人。)
 と、でも、やっぱり、内証で言った。
 胸から半分、障子の外へ、お組が、皆《みんな》が、油へ水をさすような澄ました細面《ほそおもて》の顔を出して、
(ええ、一人お見えになりましてすよ。)

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