何か御覧なさりはしませんか。)
 私は悚然《ぞっ》とした。」

       十九

「が、わざと自若《じじゃく》として、
(何を、どんなものです。)って聞返したけれど、……今の一言で大抵分った、婆々《ばばあ》が居た、と言うんだろう。」
「可厭《いや》、」と梅次は色を変えた。
「大丈夫、まあ、お聞き、……というものは――内にお婆さんは居ませんか――ッて先刻《さっき》お三輪に聞いたから。……
 はたして、そうだ。
(何ですか、お婆さんらしい年寄が、貴下《あなた》、物干から覗《のぞ》いていますよ。)
 とまた一倍滅入った声して、お蘭さんが言うのを、お種さんが取繕うように、
(気のせいかも知れません、多分そうでしょうよ……)
(いいえ、確《たしか》なの、佐川さん、それでね、ただ顔を出して覗くんじゃありません。梟《ふくろう》見たように、膝を立てて、蹲《しゃが》んでいて、窓の敷居の上まで、物干の板から密《そっ》と出たり、入ったり、)
(ああ、可厭《いや》だ。)
 と言って、揃って二人、ぶるぶると掃消《はらいけ》すように袖を振るんだ。
 その人たちより、私の方が堪《たま》りません。で無くってさえ、
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